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寝室における悪習



「リィヤード陛下!」
「現王陛下!」
「リィヤード様!!」

・・・今日一日で、一生分名前を呼ばれた気がする。
リィヤードは疲れ果てて、執務机に突っ伏した。シリスが書類を提出して戻って来るまでの3分間。
もう誰も、私を呼んでくれるな・・・

「兄様!」
その呼び声に、ばっと身を起こす。真っ先に目に入ったのは、心配そうな幼馴染の顔。自然と頬がゆるむ。
「やあ、アニィ」
リィヤードは、ふにゃ、と笑いかけた。それを見て、ピアニィはむっと顔をしかめる。
「やあ、じゃありません! 昨夜は徹夜だったとお聞きしましたよ! 夜くらいきちんとお休みください!」
幼馴染の怒りを前に、王は苦笑した。
「大袈裟だな。徹夜なんて、そんなに珍しいことでもないし・・・」
「珍しいことじゃない!?」
ピアニィが眉を吊り上げる。
「兄様ったら! シリスに隠れて、しょっちゅう徹夜してるんでしょう」
しまった、と失言に気付くも、すでに遅い。
「今度から、書類を持ち出せないようシリスに見張ってもらいます! 寝室に仕事関係の物を持ち込むのは一切禁止! わかった?」
腰に手を当て、国王を前に堂々と申し渡した。これにはリィヤードも困惑する。
隙間時間に書類をチェックするのは、時間の節約という面で合理的だ。書類の持ち出しを禁止されては、仕事の能率が落ちてしまう。それは何とか阻止したい。
「いや、でもねアニィ。眠る前にちょっと書簡に目を通す習慣があるんだ。その方がよく眠れるというか・・」
「まあ! 習慣、ですって?」
リィヤードは、またもや墓穴を掘った。
「時々、ではなく、いつも、なんですね? 呆れた! そのまま朝まで一睡もせず書簡に没頭する兄様が、目に見えるようです!」
まったくもってその通りなので、言い返す言葉も出ない。

「とにかく!」
言いながらピアニィは、リィヤードの腕を引っぱって椅子から立たせる。
「少し休憩してください!」
腕を掴んだまま導き、長椅子へと座らせた。
「アニィ・・」
「駄目です!」
リィヤードは座った位置から、情けない顔でピアニィを見上げる。

困り顔の王と、決意に満ちた令嬢の瞳。
部屋に沈黙が落ちる。

そこへ、王佐が入ってきた。
彼は妹を見て、わずかに片眉を上げた。
「どうした、ピアニィ」
「シリス!」
令嬢の怒りが、今度は兄に向けられる。
「ちゃんと兄様を見張ってなきゃ駄目じゃない! 王佐の仕事でしょう!?」
王佐の仕事は、王の執務の補佐なのだが・・・とは、シリスは言わなかった。
「何のことだ?」
代わりに、短く問い返す。
「兄様ったら、こっそり書類を持ち出して夜も仕事してるのよ!」
王佐はちら、と主を見やる。王は気まずげに視線を逸らした。それでも、一応弁解する。
「最近忙しかったから、ちょっとな」
「兄様!」
ピアニィが、きっ、と王を睨みつけた。

「やめなさい、ピアニィ」
意外にも、王を弁護したのは王佐だった。
「このところ忙しいのは事実だ。お前だって知っているだろう」
「それはっ」
ピアニィは言葉に詰まった。最近王が――というより、王宮全体が通常の倍も忙しないのは、見ていれば分かる。そして彼女には、その原因も容易に知れた。
原因が原因だからこそ、リィヤードは自分を追い詰めるほど仕事に没頭する。
そんな彼を黙って見ているなんて、ピアニィには無理だ。

「陛下、そろそろ時間です」
「ああ」
そんなピアニィの心情も知らず、王は無情にも長椅子から立ち上がる。
「待って!」
ピアニィはその袖にしがみついた。
「アニィ、大丈夫だから」
あやすように髪を撫でられ、子ども扱いされた気がして意固地になってしまう。
「じゃあ私、兄様が休憩をとってくれるまで、ここにいる!」
そう宣言して、ピアニィは執務室の長椅子に座り込んだ。
「アニィ・・・」
リィヤードは、困ったように微笑むばかり。
「駄目だよ。私はこれから会議なんだ。しばらく戻ってこないから、ここにいたってプレッシャーはかけられないよ」
「兄様が戻って来るまでここにいるわ」
そう言うと、ピアニィはつんとそっぽを向いた。
リィヤードは何か言おうと口を開きかけたが、やがて諦めたように首を振り、戸口へ向かった。
「じゃあね、アニィ。悪いけど、私は行かなければ。
いいかい、ちゃんと帰るんだよ」
ピアニィは返事をしなかった。
幼馴染と目すら合わせられないまま、小さく一つため息をつくと、王は執務室を後にした。











   
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