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水曜の午後は陛下と



週の真ん中、水曜日。
正午が近付くと、生徒は皆そわそわし出す。

いつも通り、午前の授業の終了を告げる、鐘の音。
しかし、水曜のそれはちょっと特別だ。なにしろ、水曜の午後は授業がないのだから!

「終わったー!」
教室のあちらこちらから、少女達の歓声が上がる。

どこに寄り道しようかと皆が画策する中、赤毛の少女がふと気付いたように言った。
「ってあれ、ピアニィは?」
「今日は例のお方に会いにいく日なんじゃない?」
「あ、そうか」
「え、何それ。例のお方?」
会話に割り込んだ少女に向けて、赤毛の少女は得意気に片目をつむってみせた。
「ピアニィの思い人よ」



 *****



所変わって、王宮の最奥に位置する部屋――王の執務室。

「陛下」
「何だ」
「昼食の時刻です」
「ああ、いいよ」
「・・・・」
王と王佐の間で、妙に簡潔な会話が交わされていた。
以心伝心、察しの良い王には補佐官の意図など皆まで聞かずともわかるから――ではない。 王佐は、昼休憩など要求していないのだ。主に食事をとってもらいたいのである。
そんな補佐官の真意に気付くことなく、王は黙々と書簡を読みふける。
王佐が内心で自らの無力を嘆いていたとき、部屋の外から足音が聞こえてきた。思考を打ち切り、は、と顔を上げる。

―――来た。

コンコン。
軽いノックの音。
「どうぞ」
やはり手元に視線を落としたまま、王は入室の許可を出した。
それを受けて、すぐさま扉が開く。戸口から滑り込んできたのは、王佐が待ち望んだ人物。

「陛下、昼食はもう召し上がりまして?」
その明るい声に、リィヤードはがばっと顔を上げた。来室者を見た途端、目を輝かせる。
「ピアニィ!そうか、今日は水曜か!」
「ええ、授業は午前で終わりでした。陛下と昼食をご一緒したくて、急いで飛んできたんです。
・・でも、昼食というには遅い時間になってしまいましたね。実は、今日はとっておきのものを用意していたんですけれど・・・間に合わなかったでしょうか」
残念そうに目を伏せる幼馴染に向かって、リィヤードは微笑んだ。
「いや、昼食はまだだよ」
「わあ! 本当に? よかった!」
その無邪気な笑顔を眩しそうに眺め、リィヤードは笑みを甘くした。手にした書簡を引き出しにしまい、立ち上がる。
「行こう、アニィ」
執務机の脇を通って戸口に近付くと、ピアニィの手を取った。
「シリスも。昼時くらいはきちんと休んでほしい。お前は真面目過ぎだよ」
いや、それはこちらの科白なのですが。
と内心突っ込みつつも、賢明な王佐は短い相づちのみにとどめた。


それにしても、ものすごい変わり身っぷりである。ピアニィが来た途端、当たり前のように昼食の席に向かい始めた。
我が妹ながら、たいした手腕だ。
いや、我が主が特異なだけか。

いずれにせよ、陛下には彼女が必要なのだ。少なくとも、今のところは。

いつものように、回廊を歩く王の背中を斜め後ろから見やり、それに並ぶ妹に視線を移しながら、シリスは一人確信していた。








   
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