王子の帰国



「ご帰国、ですか?」
「ええ」
きょとんとするフォンタデール国王を前に、オーベルジーヌ国第二王子はにっこりとうなずいた。

昼下がりの、少し遅い昼食の席で、二人は向かい合わせに話をしていた。
ちなみに、食堂にいる人間はこの二人だけではない。花束を抱えた人々がひっきりなしに行きかっているし、ものすごい勢いで窓を磨きたてている人が十余名もいる。容赦ない飾りつけは、今なお続行中だ。
そんな中で、平然と食事と会話を続ける二人は、わりと大物かもしれなかった。

「しかし、予定されていたご滞在の期間は、まだ半分以上残っていたはずでは・・?」
「はい。ですが、国王陛下のご婚約ともなれば、また別にお祝いを用意しなければなりませんので」
思いも寄らぬことを言われ、リィヤードは慌てた。
「いや、祝いなど・・・お気遣いは無用です。まだ正式な婚姻を結ぶわけではないのですから」
在位一周年記念式典だけのはずが、なぜか婚約式まで同時に行うことになってしまったのは、完全にこちらの都合だ。そのような勝手に他国を巻き込むなど、言語道断である。
そんなリィヤードの思いを察しているのか、サイラスは笑顔のまま左右にゆるく首を振った。
「いいえ。これは私の独断です。オーベルジーヌの意思とは関係ありません。私が勝手に、お祝い申し上げたいだけなのです」
実は、と続ける笑顔に、少し照れが混じる
「何だかむしょうに嬉しいんですよ。自分のすぐ近くで、こんなにめでたいことが起こるなんて、素晴らしいじゃありませんか。私にとっては、お二人とも大切な友人ですし」
「サイラス殿下・・・」
「ですから、少々出直させてください。リィヤード陛下とピアニィ嬢のために、びっくりするような、とっておきの贈り物を用意してきますから」
そこまで言い切ると、サイラスは照れ隠しのように、昼食の最後の一口をほおばった。
感激したリィヤードが言葉を詰まらせ、それでも何か言おうと口を開きかけたとき――

唐突に、上から何かが降ってきた。

「「!?」」

驚いた二人は、とっさにテーブルから身を引いた。その拍子に、サイラスは口に入れたばかりのものを飲み込んでしまい、横を向いてむせる。そんなサイラスに声を掛ける余裕もなく、リィヤードはただただ目の前の落下物を凝視していた。
向かい合う二人の間、昼食のテーブルの上に落ちてきたものは――巨大な花輪だった。

「あーっ、申し訳ありませんっ、陛下、殿下!!」
壁際で作業をしていた男が、慌てて走り寄ってくる。呆然と振り向いたリィヤードにぺこぺこと頭を下げながら、後から続いた数人と協力して、花輪を回収にかかる。どうやら、天井に取り付けようとして失敗したらしかった。

無事だったグラスの水を飲み干し、一息ついてから、サイラスはぽつりと言った。
「・・・・まあ、私からの贈り物など、フォンタデール城の方々には到底かなわないでしょうが」
「・・・・これよりびっくりするような物だったら、さすがにちょっと困りますね」

リィヤードとサイラスは、同時に吹き出した。









   
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