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的確な妨害



(タイミングが悪かったな)
王の執務室で書き物をしながら、王佐は反省していた。 ノックなしで入室した妹を体面上たしなめてしまったが、あれは少々可哀相だったかもしれない。なにしろ彼女は、執務室に王子がいることを知らなかったのだ。

サイラスがリィヤードを訪ねて来たのは、シリスにとっても予定外のことだった。
まさか追い返すわけにもいかないので、仕方なく、少しだけということで時間をとったのだが――ちょどそこへピアニィが来てしまった。

(陛下に会いに来るようピアニィに頼んだのは、私の方なのに)



いつもは、あらかじめ予定を伝えてあるため、王が途中で抜けられないような仕事をしているときに彼女が訪れることはない。
しかし、今回の王子の来訪は突然だったので、事前に知らせることができなかったのである。


シリスはため息をついた。
その王子の用件というのが、また何とも馬鹿らしかったのだ。
(結局、陛下に昼の休憩を取っていただけなかった)
本来なら、ピアニィさえ来れば、リィヤードは嫌でも休憩を取ってくれるはずだったのだ。それが、王子の来訪で駄目になってしまった。
あんなことに時間を割くくらいなら、仕事をしてもらった方がまだましだったのに――。

思考がどんどん愚痴っぽくなっていることに気づき、切り替えるように軽く前髪を払った。
最近疲れがたまっているせいか、ちょっとしたことでくよくよ考えてしまう。


それにしても。


「駄目ですなあ、王佐殿! お若いのにため息ばかりついて! ほら、よく言いますでしょう、ため息1回につき、幸せが3つ逃げていくと!」

・・・・・この男は何なのだろう。
それに、幸せがどうとかいう話も聞いたことがないのだが。

ちらりと視線を送ると、赤毛の大柄な青年が、王佐用の机のすぐ横に立っている。

この青年――ライリーアは、サイラスと入れかわりに王の執務室を訪ねてきた。何の用があって来たのかというと――シリスにもさっぱり見当がつかない。
豪快なノックと共にずかずかと入ってきて、天気の話からはじまり、自分の好きな食べ物や王宮庭園に対する所感など、どうでもいい話を延々と述べ立てはじめたのだ。
それも、最初はリィヤードとシリスの両方に向かって話している様子だったのに、いつの間にやら話し相手はシリス一人にしぼられていた。
(王の執務室に来たということは、陛下に用事があったのではないのか? どうして私にばかり話しかけるんだ?)
ライリーアの言動は、不可解極まりなかった。

そんなわけで、一体なぜライリーアが訪ねてきたのか、すでに1時間半経過した現在も分からないままであった。
分かることといったら、彼がやたらおしゃべりな上に、すこぶる無神経な男だということだ。シリスの苦手とするタイプの人間である。
――いや。
「きっと今によくないことが起こりますよ。なんなら、賭けましょうか。今日中に3回悪いことがあったら私の勝ち、何も起こらなかったら王佐殿の勝ち。掛け金は、そうですね、不幸の回数にちなんで銀貨3枚にしましょう。ああ、結果が出るのが楽しみだなあ。ここはぜひとも勝ちたいですね。よーし、勝利の女神に力いっぱい祈っておこう」
・・・こういうタイプを得意とする人間は、そうそういないだろう。

三度も不幸に見舞われることを力いっぱい祈られたシリスは、脱力して一瞬手元を狂わせた。ライリーアがすかさず叫ぶ。
「あっ、ほら、それじゃインクの付けすぎですよ! そら、こぼれた! あーあ、言わんこっちゃない。はい、不幸1回目。駄目だなあ、それ、大切な書類なんでしょう? まったく、王佐ともあろう者がそんな体たらくでは、陛下だってスムーズに仕事ができないでしょうに」
どう考えても、仕事が滞っているのはライリーアのせいなのだが。
ペンを持つ手を横からつかまれ、むやみやたらと動かされながら――どうやら、ペンの扱い方のコツを教示しようとしているらしい――シリスは辟易した。

今日は駄目だ。無理だ。
仕事も終わらなければ、リィヤードを休ませることもできそうにない。
この男が居座っているかぎり、ピアニィを呼ぶことができないのだ。

『また、後で来てくれる?』
『もちろんです、陛下』

二人の、先ほどの約束を、実現させてやれない。

リィヤードがピアニィと会うための時間をもうけようと、必死に予定を調整したのに。
少しでも早く仕事を終わらせるため、急いで書類を処理するつもりだったのに。

影の努力を踏みにじられ、憂鬱な気持ちで、シリスはひそかに元凶の男をにらんだ。


ところで、この部屋の主――リィヤードはといえば、さきほどから無心で書類を処理している。仕事ができるくらいには回復してきたようだ。
もしかしたら、ほんの少しでもピアニィの顔を見られたからかもしれない。だったらいいのだが。
・・・いや、後でピアニィに会えなかったとしたら、また元通りなのだろうが。



その後ライリーアは、夕食の時刻まで執務室に居座り、くだらないおしゃべりで王佐の仕事を妨害し続けた。
そのせいで、結局その日、リィヤードとピアニィが再会することはできなかった。


そして、ライリーアの訪問理由も、とうとう分からずじまいだった。
当然だ。
まさか、シリスがピアニィと顔を合わせないよう見張っていたなどとは、シリスにもリィヤードにも思いつけるはずがなかった。

こうしてライリーアは、狙いは ずれていたものの、結果的に実に的確な方法で、恋敵を遠ざけたのだった。









   
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