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悩み合う二人



シリスは黙ってカップを差し出した。
ピアニィも黙ってそれを受け取った。


ピアニィはうつむいたままベッドに腰かけ、シリスは窓枠にもたれて外を見ていた。すっかり見慣れた、城の一室からの眺め。王佐の任に就いたときから、いつも見ている景色だ。

先に口を開いたのは、ピアニィだった。カップのミルクがすっかり冷めたころ、ぽつりとこぼした。
「ごめんなさい」
シリスが視線を室内に向ける。
「何のことだ?」
ピアニィは顔を上げ、兄と視線を合わせた。
「仕事の邪魔をしたこと。忙しいんでしょう?」
「ああ」
シリスは誤魔化さずに肯定した。
「それから、話し中だったみたいだし」
「それはいいんだ。助かった」
シリスは正直に礼を言った。思い切り本心だ。
ピアニィは不思議そうな表情をうかべつつ、あいまいにうなずいた。

再び、沈黙が落ちた。

しかし、今度の沈黙は短かった。
「・・シリス」
「何だ?」
「・・・ううん、何でもない」
しかし、沈黙に戻るのもまた はやかった。

シリスは嘆息した。
彼は、相手が話すまで待つ気でいたのだが、この様子では、いつまでたっても話しそうにない。どうもこれは、 自分の手に負える気がしない。
根気強く聞き出してやれればいいのだが、それは難しい。
実際、王佐は忙しかった。なにしろ、王があの状態では・・・
(そういえば)
王佐は応急措置を思いつき、妹に提案した。

「ピアニィ」
「・・何?」
「頼みがある。陛下のご様子がおかしいんだ。少々お休みいただきたい」
ピアニィは、内心びくりと反応した。
「ご様子が、おかしい?」
「ああ。何か思い悩んでいるような・・・無駄なほど責任感の強い方だからな」
シリスの言葉を聞きながら、ピアニィはぎゅっとカップをつかむ。
「でもさっき、仮眠室に・・・」
はっとしてピアニィは口をつぐむ。シリスは妹の顔を見た。
「なんだ、陛下の仮眠室に行ったのか?」
「ええ、さっきね。・・もうお休みだったみたい」
ピアニィは平静を装って答えた。そのさまを見つめながら、シリスはうなずく。
「そうか。でも、少ししたらまた仕事を始めようとなさるだろう。それを止めてほしい。今日いっぱいは休んでいただくつもりなんだ」
「でも、」
「陛下にお会いすると都合の悪いことでもあるのか?」
拒否しようとした妹の言葉を、シリスはすかさずさえぎった。ピアニィはひやりとして、反射的に首を振った。
「いいえ、別に。・・分かった。あとで執務室に行くわ」
「頼む」
短く応じながら、シリスはピアニィの顔から目を離さなかった。




(また陛下か)
ピアニィを残したまま王佐の部屋を出て、廊下を進みつつ、シリスはため息をついた。
思いを寄せる相手に会えば、少しは気分が浮上するかと思ったのだが――
話の途中様子が変だったので、少しかまをかけてみたら、どうやら当たりのようだ。ピアニィの落ち込みの原因は、リィヤードだったらしい。
互いに思い合うだけならともかく、互いのことで悩み合うとは――
(あの二人は、そろいもそろって)
まったく、付き合いきれない。シリスは再びため息をついた。
もう二人のことは、当人同士に任せるしかないだろう。シリスにできるのは、解決するまで間、リィヤードの仕事が滞らないよう働くことだ。

そう考えて、シリスは歩く速度をはやめた。









   
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