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恋敵の濡れ衣



その日、王佐は忙しかった。式典の準備を取り仕切っていたのだ。
彼の主たる国王はというと、通常の職務すらまともにこなせないほど上の空な状態だったので、追い出し・・・いや、休んでいただくことにした。そうして残った仕事は、仕方がないので彼が肩代わりしている。
そんなわけで、王佐は非常に忙しかった。
本当に。
相当に。

それなのに。

「やあやあ、これは王佐殿! まったくもっていいところでお会いしました!」

やたら大きな声で話しかけられ、仕方なくシリスは立ち止まった。
「・・ライリーア殿。私に何かご用でしょうか」
「はい。ああいえ、正直に申し上げますと、別に王佐殿でなくとも用は足りるのですがね」
それなら話しかけるな!という声を内心にとどめ、王佐は冷静な表情を崩さず言った。
「どうかなさいましたか?」
ライリーアは、やっと本題に入る気になったらしく、声をひそめた。それでもやっと常人の音量だ。
そして、用事はこれだった。
「花屋はどこですか?」

王佐は数秒間押し黙った。
「・・・・花屋?」
「あ、花を専門に扱う商店のことですよ」
親切にも、ライリーアは説明を付け加えた。
再び沈黙。今度は数十秒間続く。

(もしかしてこの男、花屋がどこにあるか知らないのか? )
ライリーアは考えた。
(たしかに、花なんか買いそうもないよな。第一、似合わないだろ。ああ、それに比べて、昨日のつぼみの乙女ときたら・・! こんな男とは似ても似つかない! ・・いや、そんなの当たり前か。血縁者でもあるまいし)
実は二人は非常に近しい血縁者なのだが、彼はそのことを知らない。

「・・・城下の大通りを歩けば、嫌でも見つかるでしょう」
長い沈黙の末、王佐は何とか声を絞り出した。わずかに伏せられたその目は、静かな怒りをたたえている。
「え? 何が見つかるんですか?」
一方、運命の乙女について想像の翼を羽ばたかせていた夢見がちな青年は、この場の状況をすっかり頭の隅へと追いやっていた。
おかげで王佐は、先ほどから何度目かの、忍耐力を試す機会を得た。しかしながら、人を馬鹿にしたような相手の態度に、さすがにそろそろ堪忍袋の緒があやしくなってきている。
怒りが暴発する前に一言言ってやろうと、シリスが口を開きかけたとき――ライリーアが突然バランスをくずした。


シリスのいらだちを神様が見ていてくださったのか、天罰のごとき衝撃がライリーアを襲ったのだ。不測の衝撃を受け止めきれず、ライリーアは派手に転倒する。
「うわっ! な、何だ?」
果たして、衝撃の正体は。

「シリス!」


二人が気づいたときには、突然現れた少女が王佐の首にしがみついていた。ライリーアとシリスは、同時に反応する。
「貴女は!」「ピアニィ?」
ライリーアははっとして、床に手をついたまま王佐を見つめた。しかし王佐は完全に妹に気を取られていたため、その視線に気づかなかった。
「一体どうしたんだ? 何があった?」
兄の胸元に顔を押し付けたまま、ピアニィは一言も答えない。
シリスは迷った末、こう言った。
「落ち着きなさい。とりあえず、私の部屋に。ライリーア殿、申し訳ありませんが、失礼いたします」
「は? ええ・・」
未だ転んだ姿勢のまま、ライリーアはうなずいた。


王佐と令嬢が去った後、ライリーアは床に座り込んで考えていた。
顔はよく見えなかったが、先ほど自分にぶつかってきたのは、昨日の朝庭で見た乙女に違いない。“ピアニィ”という名前も、サイラスに聞いたのと一致している。
解せないのは、彼女と王佐の関係だ。彼女は王佐のことを「シリス」と呼んでいた。王佐の方も彼女のことを呼び捨てにしていた。二人が親しいのは明らかだ。

それに加えて、今の展開は何だ?
ピアニィがシリスに抱きついて。シリスはそれを当然のように受け止め。それから、ピアニィを・・・未婚の女性を自分の部屋に連れて行くというのはどうなんだ?
(まさか二人は恋人同士なのか?)
ライリーアは眉根を寄せた。
(王佐なら王族と付き合いがあってもおかしくはないか・・・それに、彼はたしか公爵家の人間だ)
もしかしたら、婚約者ということもありうるかもしれない。いや、堂々と自室に連れて行ったところをみると、むしろそう考えた方が合点がいく。

ライリーアはますます顔をしかめた。運命の乙女と結ばれることは難しいと分かったから・・・ではない。
(もし婚約者だとしても、それはきっと家柄を考慮して決められたことだろう。彼女の意思とは限らない)
ライリーアは誤解も得意だが、曲解も同じくらい得意だった。加えて、粘り強さ、もといしつこさなら誰にも負けない。


そんなわけで、強力な恋敵の登場(もちろん誤解)にめげるどころか、愛する乙女を不本意な婚約者(誤解にもとづく曲解)から救い出そうと決意するに至った。









   
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