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甘いお茶の時間



陽の射し込む回廊を、青年は足早に進んでいく。
その迷いのない足取りから、彼がこの王宮を知り尽くした人物であることは明白である。
ほころび始めた庭木の花も、小鳥のさえずりも、彼の足を止めることはかなわない。

やがて彼は、一つの部屋の前で立ち止まった。
磨きこまれた木の扉から、バターと果実の甘い匂いが漂ってくる。
そして、それに負けないくらい甘い声が。

「すごく美味しいよ、ピアニィ」

青年は、扉を叩こうと上げた拳を止める。

「本当?良かった!」
続けて、嬉しさのにじむ明るい声が響く。
「あのね、ジャムに使ったスグリは、園長にいただいたものなの。実が地面に落ちると、庭の見た目が悪くなるからって」
「ああ、裏にあるあの木からとったんだね」

青年は、まだ扉の外にいた。
しばらくためらった後、おもむろにノックする。
「どうぞ」
内側から、男の声が答えた。青年は扉を開ける。
そこは、さほど広さのない部屋だった。その割に、窓は大きくとられている。部屋の中央に、長椅子と低いテーブル。向かい合って、二人の人物が腰掛けている。
「失礼します」
青年は部屋に入ると、完璧な所作で礼をとった。そして、室内にいた一方の人物に向き直る。
「勝手ながら、会議は散会させていただきました」
その言葉を聞いて、フォークを手に腰掛けていた人物は、しまった、という顔をした。
「ああっ!もう終わってしまったのか!?」
「完璧にお忘れだったのですね、陛下」
う、と詰まった王は、観念したようにうなだれた。
「あああ、またやってしまった・・・」
そしてふと、立ったままの青年に恨めしそうな視線を送る。
「シリスがもっと早く、終わる前に呼びに来てくれればよかったんじゃないか!」
青年は、無表情に答えた。――王に視線を返した目は、意地悪そうに笑んでいたが。
「早く、呼びに来てよかったんですか?」
「・・・・っ」
若き王は、少し頬を染めた。
それを見た青年は、素知らぬ顔で言った。
「お茶の時間を邪魔するなんて、野暮なことはいたしません」
「そうよね、フォンタデールの国民たる者、お茶はゆっくり楽しむべきだわ。シリスもどう?」
王の向かいに腰掛けた少女が、すかさず同意の声を上げた。青年――シリスは、彼女を見やり、軽いため息をつく。
「結構だ。どうせ後で食べさせられるんだから」
「あら、さすが分かってらっしゃる」
少女は笑いながら肩をすくめた。

「行こう、シリス」
いつの間にか、脱いでいた上着を羽織り、王は立ち上がっていた。
「じゃあ行くよ、ピアニィ。ご馳走様」
「あ、はい、兄様・・・いえ、失礼しました、陛下」
慌てて言い直した少女に、王は優しく、しかし寂しそうに微笑んだ。
「またね、アニィ」









   
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