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雨よけ呪文は水溶性?



フォンタデールとオーベルジーヌには、幾多の違いが存在する。中でも特筆すべきなのは、魔法の有無である。
オーベルジーヌには、魔法が存在する。
しかし、フォンタデールにそれはない。ないどころか、あるはずのものまで無効化される。

この違いは、地形的な要因によるといわれているが、未だ詳しいことは分かっていない。

とにかくそんなわけで、オーベルジーヌ国内では雨具いらずの王子殿下も、フォンタデールでは魔法の加護を受けられないのであった。


 *****


「いやぁ、それはすごいマントですね。その、表面に塗ってあるのは何ですか?」
サイラスは、今夜の宿である地元の医師の屋敷に着くと、開口一番にそう言った。 雨具を身につけるどころか、まともに見たことすらないらしく、興味深げにリィヤードのマントを観察している。

リィヤードとサイラスは、部屋や食事が準備される間、応接室を借りて休んでいた。他の者は皆その準備に加わっているため、室内には二人だけだ。
ちなみに、二人とも手伝いを申し出たのだが、勘弁してください、と屋敷の者に懇願され、折れた。


「原料は木の樹脂です。私も詳しい成分までは知りませんが」
魔法のかかった上着の方がよっぽどすごいのになぁ、と思いながら、向かいのソファに腰掛ける青年にマントを差し出した。
サイラスはマントを受け取り、しげしげと眺めた。外側の表面をなでたり、フードをひっくり返したりと、なんだか文明人らしからぬ動きだ。リィヤードは、思わず笑ってしまった。
その笑い声にはっとしたサイラスは、決まり悪げに微笑んだ。
「ああ、申し訳ない。珍しくてつい」
「いえいえ、いいのですよ。それより、私にもあなたのマントを見せていただけませんか?」
「ええ、どうぞ」
サイラスは、背もたれに掛けていたマントを取り上げ、差し出した。まだ湿っているようだ。リィヤードは、手にしたそれを裏返し、
「わ」
と思わず声を上げた。
そこには、びっしりと黒い文字が並んでいた。古代語なのだろうか、リィヤードには解読できない言葉だ。
「すごいですね・・・」
なんだか、他に言いようがなかった。
しばらく字面を眺めたあと、ふと素朴な疑問が浮かぶ。
「これ、洗濯するとき落ちないのかな」
「いえ、まあ、水に強くなる魔法の言葉ですからね」
「あ、そうでした」
己の間抜けさに気付き、リィヤードは赤くなった。しかしサイラスは、リィヤードの発言にひっかかりを覚えたらしく、あごに手を当てて考え込んだ。
「うーん、でも、フォンタデールで洗濯すると色落ちするかもしれません。雨よけの呪文も、ここでは布に書かれた ただの文字ですからね。水を避ける力などないわけですし。
まあ、残念ながら、そのマントを実験台にはできませんけどね。結構高価なものなので、従者に怒られてしまいます」
言いながら、王子がいたずらっぽく片目をつむってみせたので、リィヤードはおかしくなって少し笑った。
二人は互いに礼を言い合い、マントを返した。
と、自分のマントを手にした直後、サイラスが急に目を見開き、あ、と声をこぼした。
「今考えてみると、先ほどの雨で文字が消えてしまう可能性もあったんですね。陛下のご指摘があるまで考えもしませんでした」
新発見に興奮した様子で、魔法のマントを握り締めている。あからさまな称賛の目を向けられ、リィヤードは先ほどとは違う意味で赤面した。

サイラスは、リィヤードの失言を優れた指摘に変えてしまった。意識的にフォローしようとしたわけではない。それどころか、そもそもリィヤードの発言を失言だというふうに認識していないのだろう。普通とは少々ずれた感覚の持ち主かもしれないが、言い換えればそれは天賦の才である。


フォンタデールでは色々と気をつけなければいけませんね、と苦笑する彼は、無意識に快く振舞う魅力的な青年だ。
内心でそう評価しながら、リィヤードは何だか嬉しくなった。









   
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