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寝顔は睡眠薬、寝顔は目覚まし



ふあ、とあくびを噛み殺す。
どうも、ピアニィを見ていたら眠くなったらしい。

リィヤードは、ピアニィを執務室から近くの部屋へ運んできて、そのまま付き添っていた。“近くの部屋”とは、王が休憩に使う、いわゆる仮眠室である。

ベッドの脇に置いた椅子に腰掛け、眠る幼馴染の右横顔を眺める。
クリーム色の枕と、その上に散る栗色の巻き毛がなんだか綺麗で、ふんわりと甘いお菓子を連想させた。

可愛いなぁ、と思う。
ピアニィは笑顔が一番似合うと思うけれど、泣いていても怒っていても、眠っていてさえ可愛い。
やっぱりちょっと、触ってみたいなあ、と思う。・・・思うけれど、後が色々怖いので、思うだけにとどめておく。

ふあ、とあくびを噛み殺す。二度目だ。
数えてみれば、前王が王都に来てから、今日で4日目。つまり、
(今日で徹夜4日目か)
リィヤードは、人事のようにぼんやりそう思った。


先代国王を務めた父のザフィルは、在位当時から人騒がせな人物だった。
とにかく無駄に周りを騒がせ、余計な仕事を増やす。彼に仕える者たちは、年がら年中祭りの前のように忙しく立ち働いていた。
そして、振り回されていたのは、息子であるリィヤードも例外ではなかった。たとえば、彼の成人の儀には、直前に歌唱コンテストを企画しだし、主役たる彼も一曲歌わされる羽目になった。これは結果的に大成功を収めたが、なにしろ急な話だったので、準備に追われる者たちの忙しさといったら、本当に目が回るほどだった。・・・幸か不幸か、忙しさに目を回しなれている人間ばかりだったのだが。
そんなわけで、幼い時分から父親の周りでてんてこ舞いする人々を見て育った彼は、自分は決してこのような王にはなるまいと固く心に誓っていた。

例によって、今回の来訪でもあちこち引っ掻き回しているザフィル陛下だが、その後始末のかなりの部分をリィヤードがやっていた。一日も欠かさず騒ぎを起こしてくれるものだから、休日などありえない。
父の滞在日数は、イコール息子の連続徹夜記録だった。

だが、最近忙しいのは、父親の出現ばかりが原因ではない。
リィヤードの在位一周年記念にちなんで、ちょっとした催しがあり、それに出席するため隣国オーベルジーヌの王子が2ヶ月ほど滞在する予定なのだ。
リィヤードにとっては、王として初の重要任務となるだろう。
(絶対に成功させるぞ)
新米国王は、拳をつくって小さく気合を入れた。


が、すぐさま拳を解き、その手で口元を覆った。
ふあ、とあくびを噛み殺す。

(オーベルジーヌの王子殿下は、私と同い年らしいが・・・どんな方だろう)
意識が途切れる間際にリィヤードが考えたのは、そんなことだった。



 *****



目が覚めたとき、ピアニィが真っ先に思ったのは、
(腕が痛い)
ということだった。

「うーん、兄様は・・・?」
ぼんやりしながらも自分のやるべきことを思い出し、上半身をゆっくり起こす。リィヤードを待っているはずだったのだが・・・

「ん・・・」
そこで突然、右側からくぐもった声が聞こえた。はっと目を向ける。
「え、えええっ、兄様!?」
ベッドの上、ピアニィから見て右手側に、金髪の頭が乗っている。要するに、リィヤードが、掛け布に突っ伏して寝ていた。ベッド脇の椅子に腰掛けているところからして、どうやらピアニィに付き添っていたらしい。

と、いうことは・・・
(寝顔を見られた!?)
公爵令嬢はにわかに頬を染め、思わず膝に顔を埋める。が、掛け布に押し付けた彼女の頭と、右側に伏しているリィヤードのそれとがぶつかりそうになり、慌ててすぐに身を起こした。
(あぁあっ、恥ずかしい!!)
どんどん混乱してきたピアニィは、身を守るようにぐいぐい掛け布を引き寄せた。すると、頭の下の掛け布が動いたせいで目が覚めたのか、リィヤードがゆっくりとまぶたを持ち上げた。
「!」
ピアニィが息をのむ。
リィヤードは緩慢な動作で身を起こした。うつろな瞳がピアニィの顔に向けられてから、数秒後。
「え、うわっ、ピアニィ!?」
焦点の合った瞳をはっと見開いて、リィヤードは叫んだ。瞬時に顔が赤くなる。

「ええと、たしか、ピアニィを運んで、付き添っていて、それから・・・うっかり眠ってしまったのか・・・」
声に出しながら状況確認をすることで、リィヤードはどうにか気を落ち着けた。が、最終的に導き出された結論に、落ち込んだ。
「う、わあ、格好悪い・・・」
自らの失態に頭を抱え、思わず本音を口にした。
そんな幼馴染を見て、ピアニィは吹き出す。
「ほらね、やっぱり兄様は睡眠不足なのよ」
令嬢は勝ち誇ったように断言した。
「う、む・・・」
反論できず、リィヤードは黙り込む。
「これからはちゃんと睡眠をとること! わかった?」
「・・・ああ」
了承するしかなくて、苦笑しながらそう答えた。


「さあ、もう行こう」
リィヤードは、椅子から立ち上がりながら、退室をうながした。が、ピアニィは躊躇する素振りを見せた。
「・・・あ、あの、陛下」
「ん?」
急に改まった呼び方をされ、リィヤードは怪訝そうに幼馴染を見やる。その視線を避けるように、ピアニィはうつむいた。
「その、私が眠っている間、ずっと・・・見ていてくださったんですか?」
「そうだけど」
「やっぱり・・・」
寝顔を見られていたのだ。
令嬢はうつむいたまま、恥ずかしさにほてった頬を両手で覆った。落ちかかる巻き毛が、さらにそれを隠す。
ふいに、ほとんど無意識に、リィヤードは手を伸ばした。
「っ!」
髪に触れられた感触に驚き、ピアニィはわずかに身じろぐ。その動きを感じ取り、リィヤードもまた自分の行動にはっとした。
「あ、いや、その・・・」
二人の間に気まずい沈黙が落ちる。
「・・ああ、ほら、ちょっと髪が乱れてる」
その言葉と同時に、黙したまま不自然に止めていた手を再び動かして、リィヤードは幼馴染の髪を指で軽くすいた。ピアニィは、少しうつむいた姿勢のまま、じっとそれを受けた。
抵抗されないことにほっとしながら、リィヤードは栗色の一房をすくい上げる。それをじっと見ながら、ふと先程の光景を思い出す。
「さっき、アニィが眠っているとき思ったんだけど」
「・・・はい」
「アニィは、クリーム色が似合うね」
ピアニィが、ちょっと顔を上げた。
「そうですか?」
「うん」
頬に赤みを残したまま、ピアニィははにかむように微笑んだ。
「では、今度ドレスを新調するときは、クリーム色にします」










   
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