限りなく重たい時間



空気が、重かった。
細長い会議机を囲む面々は、みな一様に難しい顔をして考え込んでいる。
いや、正確には、もっともらしく眉をしかめつつ、内心「早く終わらないかな」と思っていた。

議題はたいしたこともないはずなのに、なぜか会議は終わらない。
昨年は小一時間程度で決着がついたのだが、今年はなかなか話が進まず、ついに2日目を迎えてしまった。

唯一本当に考え込んでいるのは、最奥に座す一人の青年。
そこが彼の定位置だ。なぜならこの若者は、つい一年ほど前に国の主となったからである。

真面目な王に遠慮しつつも、あくびを噛み殺すのもそろそろ限界かと思われた、その時。


軽いノックの音が、静寂を破った。


「お邪魔いたします」

開いた戸口に見えたのは、頭を深く垂れた一人の少女。その姿を見て、官員らは一様にほっと息をつく。
そんな周りの様子など目に入らぬかのように、王はまっすぐ少女を見つめて声を掛けた。
「どうしたんだい、ピアニィ」
心なしか、声が甘さを帯びている。
王の一言を許しと解釈したのか、少女は頭を上げた。
栗色のふわふわした髪の毛に包まれた、白い面。くるんとした青い瞳を、長いまつげが柔らかく縁取っている。小さな鼻の下にある唇は、白い肌に映える紅色だ。感情の高ぶりを表すように、頬が薔薇色に染まっている。
愛らしい顔に似合う明るい笑みを浮かべ、少女は口を開いた。
「スグリのパイを焼きました。是非ご賞味ください、陛下。よろしければ皆さんも」
それを聞いて、王は困ったように笑った。
「とても嬉しいお誘いだけどね、ピアニィ。まだ会議が終わりそうもないんだよ」
「あら。でも」
笑顔を崩さぬまま、少女は言葉を重ねる。遠まわしな断りにも、まったく怯んだ様子はない。
「もうお茶の時間はとっくに過ぎているんですのよ、陛下。お茶は、我が国の民にとって欠かせない日常行事です。それを楽しめないようでは、民の心を解する良き王にはなれませんよ?」
ね?と小首をかしげる様が、何とも言えず可愛いらしい。

これには、超がつくほど真面目な王も、ついに白旗を揚げたのだった。








   
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